東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)に関する情報

インタビュー ~防災科学研究拠点メンバーからのメッセージ~


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災害に強い街作りを計画制度面から支える

姥浦 道生 (東北大学大学院 工学研究科 准教授)


津波災害と土地利用、復興における計画制度は重要な研究テーマ

 私の専門は都市計画と呼ばれる分野に入りますが、その中でも、土地利用に関連する計画システムや都市計画に関する社会の制度などを中心に研究しています。防災科学研究では、もともとの専門との関連で、「防災と土地利用」と「合意形成、住民参加、組織」という2つのテーマで研究をしてきました。1つめの「防災と土地利用」では、ある程度頻度が高く土地利用に関係のある災害である洪水を対象に、洪水リスクと市街化といったことを研究の対象にしていました。一方、土地利用計画に住民の声をどうやって入れていくか、そのための組織や計画作りの体制を考えることは、計画を作るのと同じぐらい大切です。「合意形成、住民参加、組織」というテーマではこれらについて研究してきました。

 今回の津波災害を受けて、「津波と土地利用」というのが重要なテーマになってきています。今回のような大津波は、発生頻度は低いのですが、一度うけると壊滅的な被害になり、場合によっては人命も失うことになってしまうので、もう少し土地利用を津波という観点からも考える必要があるということで、そのためには、どのような制度が必要か、実際に土地利用を動かすにはどうすれば良いのか等について研究を展開する必要を感じています。特に最近は、住民主体・住民参加の街作りが言われているので、そういう状況かつ緊急時にどうやって災害リスクを考えながら土地利用を決めていくかを考えるのが重要なポイントだと思っています。実際には、考えながら実践をしていき、どのような課題があったのか、ある程度時間が経過した後で振り返る形での研究になると思います。

被災地の復興計画作りでは

 被災地では、これから本格的に復興計画作りが進んでいきます。ここで一つ難しいと感じることは、実際に津波を見ていない我々のようなものが、津波を体験した方々が住む街や住まいをどうするかの計画作りに関わらざるをえないということです。

 実際に津波を見ていない私たちは、震災後4ヶ月経って、ショックも少しずつ和らいできています。しかし、被災者の方の心はまだそこまで戻っていません。また、特に、商業者、水産業の方など、明日の糧を得なければならない方にとって、津波の影響は大きかったけれども、それよりも明日の糧をどうするかが重要になってきています。そういった様々な感情を持つ被災者の方を対象とする計画作りにとって、どうすることが適正なのかということを時間軸も含めながら考えていくというのは難しいことです。

 いま、復興計画作りで欠けていることは、広域的に連携した計画作りです。今回の津波で被災した地域の多くは、もともと人口が減っていた地域でした。このような地域の問題は、一つの自治体ではなかなか解けなくいこともあって合併等が進んでいたのですが、今回の災害とその復旧・復興は、そのような問題を再び顕在化させています。そういった意味で、自治体間の連携や市を超えた地域レベルの計画、つまり、地域として実際の生活圏、経済圏のなかでどのような役割分担をしていくか、地域のためには公共的な施設の集約により規模のメリットを得るべきか、等といった議論に基づいた計画づくり必要なのです。

 しかし、いまは、各自治体ともに自治体での計画作りをすることが精一杯な状況で、隣の自治体との連携などは考えられておらず、そういった地域レベルでの役割分担や施設配置などが復興計画の中に全く入ってきていません。恐らくこれから、それぞれの自治体の計画を作ってから、それをどう調整していくかという段階になります。復興計画において広域連携を促進するためには、関係する自治体職員相互の話し合いと、県や国からの示唆の両方がうまく機能することが必要ではないでしょうか。計画作りに必要となる広域的または根幹的な施設、例えば、鉄道であるとか道路であるとかそういうものについては、住民の意見を聞きながら県レベルである程度決めていくのが必要だと思いますし、もう少し根幹でないものについては、自治体間で積極的に話し合いを行い、連携した計画作りとすべきです。

 一方、今回の災害では、自治体行政に対する支援はこれまでになく手厚くされていると感じていいます。名古屋市から陸前高田市、札幌市から山元町というように行政から行政に対する支援に加え、URが計画づくりの支援に入る等といったことも行われていますし、国交省も復興計画作りに必要ないろいろな調査をしています。しかも、これらの支援が比較的連携をとりながらなされており、行政に対する支援は、比較的うまく機能していると見ています。

研究・情報を横につないでいく場所に

 防災にかぎらずいろいろな方面で、行政も研究も非常に狭い範囲に特化したものとなってしまい、横のつながりが少なくなり連携が不十分になってしまっていることは否めません。そういった意味で、防災というように人の生活に一番繋がることを軸として横の連携を図っていくことは必要なことでしょう。特に、今回の震災では、ハード対策だけでは防災ができないということが改めて明らかになったので、横の連携をとる場として、災害科学研究拠点は重要で、その役割を果たしていくべきだと考えています。

 今回の震災は、世界レベルでみても極めて大きな災害と言えます。これから、災害からの復興や災害についての研究が進む中で、いろいろな教訓が出てくるはずです。そういうものをどんどん情報発信をしていく。我々の成功、失敗、教訓について、我々だけで閉じてしまうのではなく、それを横につないで、その成果をいろいろな人につかってもらう。災害科学研究拠点のもう一つの重要な役割がそこにあると思います。












 姥浦 道生 (うばうら みちお)
 東北大学大学院 工学研究科
 都市・建築学専攻 准教授
 博士(工学)

 専門:都市工学
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