東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)に関する情報

インタビュー ~防災科学研究拠点メンバーからのメッセージ~


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岩石が語る過去の地震を探して

石渡 明 (東北大学 東北アジア研究センター 教授)


過去の巨大地震の跡が地表に?

 私は、地質学・岩石学を専門としていますが、防災に関しては、地震の揺れの強さを墓石の転倒率から理解しようという研究をしてきています。墓石というのは、物体としての性質が一つ一つ違う家屋とかビルと異なり、全国でほぼ規格化されているため、同じ揺れが来たときに物体としての挙動が比較的均一です。そのため、明治時代から震度を知る指標として着目されてきており、研究としての伝統とデータの蓄積があります。

 今回の東北地方太平洋沖地震の後も墓石の転倒率の調査を仙台周辺でやってきています。転倒率の調査は、少なくとも30基ぐらいのお墓がたっている墓地を対象に行うのですが、地域の違いはもとより、大きな墓地では同じ墓地内でも場所によって転倒率が違うなど、今回の地震の揺れについて、いくつかの特徴的な事柄がわかってきています。また、仙台周辺では墓石の転倒率はあまり高くなかったのですが、三陸では津波によって墓石が大きく破壊された場合もあり、今後は三陸地方にも調査範囲を広げていき、今回の地震の揺れや津波の特徴を明らかにしていくつもりです。



大きく破壊された岩手県大槌の江岸寺墓地。流速40 km/時を超える津波の引き波により墓石が転本年3月11日の津波により墓石が動し、互いに衝突して割れたり丸くなったりしたと考えられる。

 一方、私の専門とする岩石学・地質学的な面での研究展開として、今回のような大地震が地質学的にみると現在地面に現われているもののどれに対応するのかというのを少し詳しく調べてみたいと考えています。

 今回の地震は、震源域の延長が500kmあります。地球上に現れているもので500kmあるいは1000km連続するものはなにかというと、それは、造山帯といわれるものなのですが、その中にある変成帯は、地下の深いところから上がってきたということが解っています。その変成帯が何を意味するかということはあまり考えられていなかったのですが、今回のような地震やスマトラ地震、チリの地震というような巨大地震が立て続けに起こると、もしかするとそういったものは、昔の巨大地震の現れではないか?それが地下の深いところから現在は陸上にあがってきているのではないか?と考えられるかもしれません。そして、それが過去の大地震の跡であるとしたら、地下の深いところで起こっていることがそこを調べることで解るので、岩石学者として以前からやってきた研究が地震のメカニズムを解明するのに生かせる可能性があると考えています。

被災地に支援の継続と命を大切にする施策の実施を早急に

 今回の災害では、地震の揺れによる被害は大きくなかったのですが、津波で2万人の方が亡くなり、心が痛みます。今回の災害の被害はものすごく大きく、4ヶ月たってもまだ避難所生活をしている人がたくさんいます。災害直後は募金の呼びかけなど盛んにやっていましたが、それも今はだいぶ少なくなってきているような気がしますが、むしろ、今から更に支援が必要なのではないか、まだ大変な時期は終わっておらず、今後も支援の継続が必要と感じています。

 そのような中で、今すぐにやらなければいけないと痛感していることは、今回の教訓を生かして、人の命を大事にするような施策を実施することです。具体的には、特に、大きな地震と津波の襲来が予想されている、南関東から東海、東南海、南?、九州の太平洋岸までの地域の津波対策をしっかりやることです。防潮堤は津波が越えなければ役に立ちますが、想定はいつも破られるので、防潮堤の建設よりは、むしろ、人々が逃げ込めるような場所を作ることが人の命を大事にする施策として必要だと感じています。

 もう一つ重要な事は教育です。日本列島に住んでいる以上、地震や火山、台風などの気象災害とは一生つきあっていかないといけません。ただ、今はそれらに対する基礎知識の習得が教育の中で重視されていません。特に、高校の地学の実施率がものすごく下がっていて、それはなんとかしないといけないと感じています。地学というまとまった形で、自然現象を宇宙から地球の中まで教えることは重要で、一人一人が自然現象に興味を持って頭の中に入れておけば、いざ津波とか災害が来たというときに対応が違うと思うのです。

良質な研究に基づいた情報発信と研究交流ができるような研究拠点に

 私がこのような文理融合研究拠点的なものに参加するのは二回目です。金沢大学にいた時に能登半島地震に対応するための文理融合的な組織に参加したのが初めての経験だったのですが、能登半島の被災地は、過疎化、高齢化が進み、そういった中でどうやって復興していくかが課題でした。そういう問題は、文系や理系だけでやっていては解くことはできず、文理融合でやっていくことの重要性を認識しました。今回の災害も、都会ではないところが多く被災したということで、基本的には能登半島の状況とよく似ていると思っています。ですので、これからの復興の課題を解くためにも、文系の研究者、理系の研究者ともに、そろそろ現地に入って実情を把握したうえで、地に足をつけた対応をしていくことの必要性を感じており、私も、積極的に現地に入って調査を行うつもりでいます。

 「この震災の経験を海外にも」というようなことが言われますが、私個人としては、この震災の経験がそのまま他の国で生かせるかというと、そこにはワンステップ以上のものが必要だと考えています。国によって社会状況が違うので、すぐに何かができるというような考えはしない方が良いと思っています。ただ、何ができるかは常に考えていかないといけません。

 そういった意味で、国際化と言ったときの第一は情報発信だと考えています。我々の研究成果を国際レベルの報告として外に出すというのが重要で、きちんとした学術雑誌に論文を書くというのが一番しっかりした研究者間のコミュニケーションにつながります。また、国際的という名前をつけた拠点を作る意味は、人の交流、研究の交流を活発にすることにもあります。いわゆる先進国に限らず開発途上国にもきちんと研究されている方は多いので、そういった方を招いたり我々も現地に行ったりして、一緒に研究を積み重ねることが大事です。













 石渡 明(いしわたり あきら)
 東北大学 東北アジア研究センター 教授
 博士(工学)

 専門:岩石学、地質学
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